再逢 彩哀 …最愛   − 14




 浮遊する意識を掬い上げるかのように触れてくる、感触。
 髪から、額、米神を掠めて頬へ。
 そうして、唇にそっと触れ、形のまま撫でる。
 こんな風に、柔らかに愛しそうに触れてくる存在なんて―――僕は、知らない。




 からからに乾いた咽に突然水分を送り込まれ、それを欲していたにも関わらず当り前ながら、ルックは思い切り咳き込んだ。
「ごほっごほっ……っ―――に、やって!」
 怒鳴りながら感じた咽の痛みと掠れた声に、こいつと寝たんだったと今更ながらに思い出す。
「水欲しいって言ったの、お前だろ」
 どこか可笑しそうに笑う目の前の男を、睨みつけてやる。効かないのは解りきってはいたが。
「お前……変」
「…………いきなり、そう言う?」
 仮にも、昨夜寝た相手目の前にしての台詞とは、到底思えない。
 重い躰をそのまま寝台に沈み込ませて、乱れているだろう髪を掻きあげながら深い溜息を零した。
「声掛けられりゃ誰とでも寝るって噂、聞いたんだけど……。ガセ?」
「別に、誰とでも…って訳じゃない」
「………でも、それなりに経験あるんだろ」
「……あんたには遠く及ばないだろうけどね」
 一体何を言わせたいのか、この男は。
「何っていうか…反応、初過ぎ? 処女でもそこまで初くないぞ」
「――――――っ、悪かったね!」
 与えられた快楽を、いつものように受け流しきれなかった自覚ははっきりある。そのことで一番戸惑ってるのは、自分だ。
 全ての快楽は、ある程度律しきれる―――と思っていた。
 実際、今まではそうすることが出来ていた。
 それが、よりにもよってアカザ相手にいい様に翻弄されて、晒す気など皆無だった態まで暴かれて。何故という疑問と、それがこいつ相手で為されたということに、憤死しそうなほど憤りを覚えている。
「別に? 凄っげー萌えたし?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!! だからって、限度くらい知りなよ!」
 他人と寝ることを覚えて、足腰立たなくなった状態にまでなったのは、初めてのそれから精々4、5回目くらいまでだ。
 その後は、相手を留まらせる方法と、己をセーブするコツを覚え…そんな事自体なくなった。
「なーに言ってんだ? お前気絶したから、5回でやめてやったろ」
「…………………信じられない」
 受け止めるだけで精一杯で、回数なんて数えていられなかったのに。こいつのこの余裕はなんだ? 己の体力がないというのは、イヤになるほど知ってる。だけど、こいつのこれは……。
「……絶倫、って知ってる?」
 そういう輩がいるらしいというのは、知ってはいたが…幸いにも今までの相手にはなかった。
「あぁー? 知ってるけど……つーか、俺だって5回は最高記録だぞ?」
「威張るなよっ?!」
 そんな台詞、よく大声で言えるよね!
「体の相性いいみたいだな」
「ッ! 要らないよ!」
 そんな相性―――。
 昨日までは、自分たちは喧嘩相手だったはずだ。その喧嘩が周囲に与える影響は無駄に大きかったらしいが。そういう間柄でしかなかった、筈だ。
 なのに、何故こんな状態になってるんだろうか……。
「要らなくないだろ、俺は結構お前気に入ってるし?」
「…………はっ?」
 それこそ正に、寝耳に水だ。
「じゃなきゃー、好んで男となんてしないだぞ、俺は」
 そっち方面で不自由した事ないんだからな、と当然のように告げてくる男に、思い切り胡乱気な視線を向けた。
 気に入ってるというのなら、ちょっとくらいは信じてやってもいいだろう。というか、でなければこいつのこの所業の意味が全く掴めないというのも一理で。
「……だからって、いきなり押し倒すのか」
「いや、それは俺にも予想外だった」
「…………はぁ?」
 予想外っ?! 予想外って……何だ?!
「何かイライラするしムカムカしてたんだって、お前ン所為で」
「僕の所為って、何さ」
「さぁ? でもお前見てたらそうだったんだって。で、文句言おうと思ってここ来て直に顔見たら、突然ムラムラしてヤりたくなった」
「…………………」
 その論理って、全っ然、解んないんだけど。
「って訳で、暫く相手しろよ」
「………あんたね、」
 信じられない。今までも不可解だ不可解だとは思ってたけど、ここまで不可解で難解なヤツだとは思ってもなかった。
「いいじゃん、当然俺なら抑止力にもなるし、一石二鳥だろ」
「――――――!」
 な、んで……。








...... to be continue


 この辺りはね……書けてたんです。アカザ坊設定した時には既に? っていうか、このシーン対応の為に、生まれたんですよ……彼らは(苦笑)。

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