再逢 彩哀 …最愛   − 15




「どうして―――ッ」
 知ってる……んだ。
 刹那、言葉を失ったのを見、こいつはにやりと嫌な笑みを浮かべて瞳を覗き込んでくる。
「言っとくけどな、俺こっち方面百戦錬磨v 相手の目の色見りゃ、解る」
「…………………」
「こないだ石板前で、他のヤツの誘いにのってた時解った。お前、好きで抱かれてやしないだろ」
 そもそも、抱かれるのも触れられるのでさえ嫌いだろ。
「…………何で、」
 ……解る?
「表情、強張ってる。微笑って見せてるつもりだろうけど、相手の視線が離れた時に素に戻った顔が」
 凍り付いてるかのような、冷たさを見せるのだ……と。
「普通そこまでするか? 折角軍主のお気に入りなんだし、その特権を生かすとか、軍律を厳しくするとかして護ってもらおうとか思わねーの?」
「―――あんたには…解らないよ」
 誰彼ともなく拒絶するには、この容姿が邪魔をする。
 ひとりのものとなれば、それでさえ力で抑え込まれる。
 不特定多数を気が向いた時に相手にさえしてれば、 「いつかは」 とチャンスを予感させるから……その手の危機はなくなりはしないが、随分減った。
「誘いにのるって事が、重要なんだ。心構えをする、その時間があるって事だ。だけど、強姦は違う。構えも何もないとこに土足でいきなり踏み込まれたらっ!」
 ――――――コワレル。
 行為自体に寄るもの、ではなく。
 その瞬間、何かに誰かに救いを求めようとする―――そんな弱さを嫌悪する自分に、自分が壊される。
「他に方法なんて、なかった」
 自分を護るのは、結局は自分にしか出来ない。
 魔力がどんなに高くても、どれほどの呪術を使いこなせても。無効化されれば、全くの無力なのだ。それを、先の大戦時に身を持って知った。
 この小さな躰も小さな手も、己の矜持をいとも簡単に崩すものにしか成りえない。
 自分を壊すのも、護るのも―――それが出来るのは、やはり自分でしかない。
「………解んないよ、あんたには」
 どうしてこいつは、僕が生きていく為に培ったモノを取っ払おうとするんだ。
「……サイテー」
「馬鹿だな、お前。壊れるって事は、又、最初からの構築が許されるって事だろ? それを受け入れられない強さは、本当の強さじゃない。怯えて縮こまって、立ち止まってるってだけじゃんか」
 人に頼るのも、全然恥ずかしい事じゃない。
 108星の意味だって、突き詰めれば結局はそこに行き当たるんだろ。
 頼って頼られて、耐えられなきゃ壊れて。壊れたら、再構築し直せばいい。それに寄って、人は確実に強くなる。
「壊れる事恐れてちゃ、駄目なんだよ」
「…………無理だ、」
 僕はあんたとは、違う。3年前のあんたがそうだったからって…そうやって今の強さを身に付けたから、って―――。
「僕には……あんたのような強さはない」
 だから、上辺だけしか見ないようにしていたんだ。
 あんたという存在を認めたら……根本から崩れ落ちそうな予感がしていたから。
 ―――なのに。
「何で……見せ付けるんだ」
 両腕で顔を覆う。
 見たくなかった、認めたくなかった。
 弱い自分を晒させる、あんたって存在を。
「………俺は自分とは違うお前の強さには、結構一目置いてたけどな」
 そんなの………、 「嘘だ」 。
「嘘なんて吐いてどうすんだ?」 あんまり訝し気に訊ねてくるから、それで解ってしまう。
「……馬鹿にしてんじゃなかったの」
「馬鹿なんて、最初っから相手にしねーよ。んーなの無駄じゃん」
 からかいや誤魔化しはするが、アカザは嘘は言わない。だから、それは真実なのだ。
「そんなの…………」
 知らなかった。
「別の意味でなら、馬鹿だなとは思うけどな」
 こんな方法でしか、自分を護る術を知らない―――という、その事に。
「後悔はしてないから、いい」
「反省はすべきだろ」
「………でも、きっと同じ状況になったら僕は又同じ事をするのを躊躇わない。だから……」
 後悔も反省も、無意味だ。
「お前って…本ッ当、馬鹿」
 深い溜息と共に心底呆れたように言われ、
「知ってるよ……」 とだけルックは返した。
 そんな事、知ってる。
 だけど、それが自分だ。どうしようもない。どうする気も、ない。
 必要以上に己の内に他人に踏み込ませるなんて、冗談じゃない。
「馬鹿だから、見ててやるよ」
 細められた紅玉に言われ、何故だか否と…たったひと言が言えない。
「それに、俺は馬鹿なお前が気に入ってんだよ」
 もっと強かに世渡り出来たなら、きっとこんな風に想いは向かなかったと、アカザは言った。
 ルックにしかない強さも、不器用さも、それがルックだからこそ愛しいと感じるのだ―――と。




 これほどの愛しさと、執着を覚えるものになんて。
 出会えるなんて……思ってなかった。
 そんなものがあるなんて、認めたくなかった。
 それでも、弱さをも強さへと還元しようとする、痛々しいまでの姿を見て、哀しいと…愛しいと思わずにはいられない。
 出逢って、認めて―――そしたら、手に入れずにいられる訳がない。


 だから………。

 だから、それを捕まえた。








...... to be continue


 取り敢えず……くっ付いたって事になるんでしょうかね(笑)?

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