泣きたくなるほどに − 12 再会後、ルックに対する感情は嘲りと哀れみだった。 想いもない、快楽さえあるのかどうかも解らない、そんな関係を甘受するのは愚かだと思っていた。それも、本人はそれを全く望んではいないのに、だ。 だけれど、そうしなければならなかった経路というのも、理解できてはいた。ルックがルックで在るが故に、在ろうとするが為の決断だという事も。 が、それが受け入れられるかといえば、答えは否だ。 だから、馬鹿だと思っていた。馬鹿で、矜持だけ高くて、自分を曲げる事を知らない。 だけれど……。 哀しいまでのそれは、己にはない強さで―――次第に、目を離せなくなった。 綺麗に覆い隠したその内を、曝け出させたいと。 ひとりで生きてゆこうとする強がりに、誰一人としてそうして生きてゆく事なんて出来やしないという事実を伝えたかった。 その内を晒すのが、真実の顔を見せるのが自分ではない事に苛立った。 その時点で囚われている―――事も知らずに、いた。 他の何に拒絶されても。 それをするのが、こいつである事だけは……許さない、とアカザの内に怒りにも似た感情が湧き上がる。 何故なら、それは全てを失うに等しいからだ。 己の全て―――を。 傲慢ともいえるその思考は、だけれどアカザの本心に他ならず。 きっぱりと拒絶を告げる翡翠に、躊躇せずに手を伸ばす。 欲しければ、待ってるだけでは駄目なのだ―――と、細く手折れそうな腕を掴み取った。 「ふざけんな。俺はテメーを手放す気なんて、これっぽっちもねーんだよ」 怒気さえ含ませ、翡翠を真正面から睨み付ける。驚きで瞠られる翡翠へ、逸らすことなど許さないと。久方ぶりにその翡翠に映る己を認め、どこか安心する自分を知った。 「テメーは、俺のモンだろ」 アカザの傲慢ともいえる台詞と態度に、ルックは見る見る表情を強張らせて顔色さえなくす。わなわなと小刻みに震える唇が、一瞬噛み締められ。そして、何かを振り絞るように開かれる。 「―――い、今更っ」 感情の迸るままに、ルックは掴まれた腕を振り払った。 そして、その勢いのまま真正面から紅玉の瞳を睨み上げる。 「忘れたのは、あんただ」 思い出してなんて欲しく、ない。 どうせ、いつかは手離さなきゃならないんだったら……離れる事を前提とした関係に過ぎなかったんだから。 「そのまま、忘れてれば良かったんだ」 そうすれば、何度もこんな感情に晒されることなんてなかったのに―――。 「……どうして」 目許が、抑え様もない熱を孕む。 「うるせぇってんだろ! いいか、逃がさねーからな」 「そんなの!」 勝手に溢れてくるのが涙だと、知っていながら。 拭うこともせず、渾身込めて睨み付けた。 「………信じられる訳ないだろ!」 だって―――。 「あんた、忘れたじゃないかっっ」 それなのに。 「忘れたじゃないか!!」 どうやって、信じろと言うのか。 「あんたと僕の関係だけを」 どうやれば、信じられるのか。 だけれど、それ以上に。 どうすれば信じたいと思えなくなるのかが……解らない。 「あんたなんて、大っ嫌いだ!」 認めたくない弱さを自覚させ、あまつさえ居場所さえも与え、そして勝手に忘れたくせに。 やっと手に入れたと思ったそれを、何の前触れもなく失ったと知った時の、ぽっかりと穴を空けた空虚感。 そんなもの、もう二度と受け入れられない。 痛みで、胸が裂ける。 心が……壊れる。 こいつは、認めたくも見たくもなかった自分自身を全て暴く。 ……弱く、する。 「あんたなんて、要らない」 悲鳴よりも、嗚咽よりも痛々しい声音に、アカザは僅か目を細めながらもそっと腕を開いた。 「来い」 「な、に……言って」 「来い」 此処がお前の居場所だろ―――と。 ただ、じっとその場を示してアカザは待ち続ける。 「来い、ルック」 そして、名を呼んだ。 名を呼ばれ、抑え切れない感情が溢れた。 ...... to be continue
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