例えば、こんな話 − 事と次第 朝一番の仕事は、お茶の用意。 寝起きは自分でも悪い自信があるけど、こればかりは何年もやってきてる事だから、例え寝とぼけてたとしても勝手に手が動いてくれる。 ある意味、長年の習性というのは恐ろしい。 「おはよう、ルック。今朝もいい香りですね」 まったりとした口調でダイニングへの扉を開くその存在に、 「おはようございます、レックナートさま」 朝食の準備をしながら応える。 この広い屋敷には相当だと思うけど、僕等ふたりで食事をするには無駄に大きなテーブルの椅子を引くレックナートさまの前に、湯気の立つ味噌汁と御飯の器を並べて置いた。 おかずは、納豆と生卵、そして海苔に梅干。これ以上もなく和食だ。 その向かいに、ヨーグルトと野菜のサラダを並べて席に着いた。レックナートさまと別メニューなのは、朝から食物の摂取量なんてそれほど取れないからに他ならない。 「「いただきます」」 向かい合って両手を合わせて、食事に掛かる。 黙々と食事をしながら、ふっと心配になった事を訊ねた。 「レックナートさま、僕今日から学校なのですが……お昼の食事は大丈夫ですか?」 レックナートさまは、家事がからっきし駄目な方だ。この屋敷に引き取られた当時、レックナートさまが台所に立つ姿を何度か目にした事がある。が、元は食物の筈のあまりに奇異ななれの果てを目前に突き付けられ、当時7歳だった自分は、正に生き残る為に家事全般を会得するに至ったのだ。 「あぁ、そうでしたね」 頷きながら、 「お代わり下さい」 と茶碗を差し出してくるのに御飯をよそって渡す。 「明日からはお弁当作っておきますので、今日は出前でも頼んで下さい」 暗に台所に立つなとの意を込めて進言すれば、 「そうですね」 と返ってきた応えに心底ホッとした。 ...... to be continue
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