幻水1_10 単純、短絡的、思い込み―――どれだけ言を尽くしたらいいのか。 あぁーもう、本当に! 「……冗談じゃない」 何だって僕が、他人に示唆されなくては自分の気持ちさえ解からなかったような子供に振り回されなくちゃなんないのか。 別に、好きだからどうしたいとか…。 受け入れて欲しいとか…。 そんな風に言われた訳じゃないけど―――。 「知っててくれたらいいんだよ!」 そう喚くように言い置いて、脱兎する子供を呆れて見ていた。 「………聞けよ」 勝手に言いたい事言い置いて、さっさとどこかへ行くなんて……いいとこのボンボンじゃなかったのか。 礼儀以前の問題だよ。保護者の居ない今、この苦情はどこへ持って行けばいいのか。 まだ、あれを野放しにするには早いだろう。 「………全く、ね」 自分以外には軍主としての顔をちゃんと見せるから、忘れがちになるんだけど。 自我の確立がようやっと終わった年頃の子供なのだったっけ。 どこかから吹き込んできた風に、髪が浚われる。 ………どうして、僕なのだろう。 従者に父親、そして親友を亡くした彼が、何故僕の傍に居る事を良しとしているのか。 傷付けるのが本意ではないけれど、自分の言葉が周囲の者達に毒舌と称されている事を知らない訳じゃない。相手が誰であろうと、態度を変える気なんてこれっぽっちもない。 勿論、それが自分が星を担う天魁星であろうと―――だ。 人に変えられる自分なんて、許せない。 なのに…………。 寂しいからなのか? 天間星という星を担い、石板を守る任をも持つ僕ならば、確実に戦争終了までの時間が約束されているから? 失わない対象として、その存在を見ているのか。 ……そうなの…かも知れない。 夜の帳が落とされる刻、吹き込む風は冷たさを含み始める。 その冷たさを心地よいと感じながら、静かに目を閉じた。 ―――今夜の砦は眠りにはつかないだろう。 ...... to be continue |