幻水1_9






 今日も子供は石板前の僕のすぐ横に陣取っている。
「…………もしかして、子供……暇―――」
 じゃない筈だよね? 明日はシャラザートへの進攻が決まってたんだから…。
「んー…」
 言葉を返そうともせずにちらりとこちらを見て、視線が合うと慌てたようにそれを外す。
「…………」
 何なのさ、そのリアクションは。
 思い切り胡散臭い。
「……昨日さー…………」
 そこまで言い掛けて、言葉を繋ごうとしない。又又らしくない。言いたい事とかをちゃんと言えるとこが、唯一、子供の中で好ましいと思ってたんだけど…。
「―――鬱陶しいのは嫌いだからね、早く言わないと追っ払うよ」
 傍でうじうじされるなんて冗談じゃない。
 ちょっとムッとしたようにふくれっ面になるけど、そんな事僕の知った事じゃない。
「昨日ヒックスに、何でルックの傍に居ると落ち着くんだろう…って聞いてみた」
「ふーん?」
 そんな事、他人に聞いて解るのか? 自分でさえ何でなのか把握してないのに?
 ……って、又押し黙ってるし。
 顔まで赤らめて……熱でもあるの?
 すぐ傍にリュウカン居るから、見てもらえばいいんだよ。
「………鬱陶しい」
 剣呑さを込めてそう呟くと、 「―――すっ、好き、だからじゃないの! って…………言われた」
 精一杯という感じで押し出された台詞と共に向けられたのは、睨み付けるかのような強い瞳。
「はぁ〜?」
 一気にそこに結論付けるのって短絡的じゃないの?
「…………どうして、そんなに単純なのさ」
 という事より、
「子供には僕が女に見えるの?」
 そっちの方が問題だろう。
 まぁ、どうやら自分の顔が世間一般的には持て囃される類のものらしいという事は知ってるし、その所為で変わった性癖の輩から襲われそうになった事だって少なくないけど。
 それ以前に、恋愛って代物は男と女の間で執り行われるものであって、自分がその対象として――よりによって子供から――見られているなんて考えたくもない。
「んーな…訳じゃないけど…………」
 歯切れ悪いね。
「だったら、何でちゃんと否定しないでここまで話持ってくるのさ」
 冗談じゃないよ。
「―――だって! ……………かも、知れない、って…思ったから」
 ………は?
「そ、うかも知れないって! 思ったんだよっっ」

 ……ちょっと…………待ってよ(脱力)。








...... to be continue


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