幻水1_8






 湖上の中に位置する所為か、この砦は風に吹き荒ばれる。
 必要のない部屋には扉をつけていないから、風通しが良過ぎて髪が乱れて困る。
 その上、あれ以来、子供が暇さえ見つけては石板前で黄昏てて、鬱陶しいことこの上ない。
「………こんなとこで、実りのない時間過ごしてて楽しい?」
 辛辣に言い放ってやると、 「う〜ん」 と子供は座り込んだ格好のまま、こちらを見上げてくる。
「実りがないって訳じゃない……って言うか…何て言うか」
 ごにょごにょと、意味不明な事をのたまう。
「…何さ、それ」
 ちゃんと答えになってないから、この場合の訳解らないっていうのは、ただ単に相手が子供だからって訳ではない…と思う。
「前に…とーさんがさー」
 話し始めは行き成りだけど、子供の口からその父親の名が出た事に、すっと目を眇めた。
 自棄とか自嘲とか…そういう類の物言いではなさそうだけど…。
 そこまで考察して、思わず自分の保護者的感覚に気付いてしまう。
 …………冗談じゃ、ないよ。
 深い溜息が漏れる。
 本当に、最近はらしくない…。
「人にはちゃんとその人だけの居場所があるって言ってたんだ」
「……はぁ…」
 それって、石板(ここ)のことを言ってるのか?
「でさー、ここって落ち着くから……そうかな〜って思ってたんだけど………」
「……石板守になりたいの、子供」
 いいけどね、別に。そうなったら、自由に使える時間は知らないうちに溜まった本を読破出来るし…。
「っていうかさー、この前ルックが飯食いに行ってひとりでここに居た時には…落ち着けるなんて思わなかったんだけど…」
 何なんだ、それは……。
「……セットじゃないと駄目ってこと?」
「ーん…ってか、ルックが居るといいみたい?」
「…………は?」
 あぁ、何だか凄い間抜けた面してそうなんだけど……。
「ルックが傍に居ると、落ち着くんだよな? これって、何で?」
「……そんなの知らないよ、」
 どうして僕に聞く? 子供の気持ちなんて解る訳ないじゃないか。
「でも、だからって人の邪魔しないでよね」
「っ! 邪魔なんてしてないだろ!」
 今だってそうなんだけど……邪魔してるって自覚ないのか?
「俺はただ、ルックが暇そうにぼーっとしてるから! 話し相手になってやってるんじゃないか」
「…………大きなお世話だよ」
 言っとくけど! ぼーっとなんてしてないし、暇そうに見えてるなんて心外だね。

 これだから子供っていうのは―――。








...... to be continue


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