幻水1_7






「………泣けばいいじゃないか」
 真っ暗な部屋の中、身に余り過ぎるほどの大きな寝台の上でぼーっと座り込んだままの子供に、そう言ってやった。
「………泣いてちゃ……駄目、だろ」
 返されたのは覇気のない口調と台詞。
 ……らしくない。
「……誰が駄目だって言ってたのさ」
「…………誰、って」
「誰も泣くな、なんて言ってない。悲しいときに泣くのも、悔しいときに泣くのも、人だったら当然だろ」
 子供がらしくないから……こっちまで引きずられる。
「だって、軍主じゃないかっっ!」
 どこかかすれた声音、でも返ってきたのは強めの言葉。
「軍主は人間じゃないの?」
 俯いたままの子供の肩口が、小さく震える。
「そんな人じゃないものに、誰も着いてきやしないよ。君の元に集まる星が何を求めてるのか、知らないとは言わせないからね」
 泣けないって言うのなら……。
「…………って、」
「あんたはそんなモノになりたいの?」
 ―――泣かしてやる。
「絶対的なものなんて、誰もあんたに求めてやしない。人である事を止めろなんて言ってない」
 刹那、びくりと竦んだ身体が、小刻みに震えだす。
「…って、もぅ、…誰も居、ない………」
 しゃくり上げるように、吐露された言葉は濡れていた。
「誰も居ないっっ! 何でだよっ、俺…間違ってたのか? 何でこうなるのか、全然解らないし………もぉ、どうしていい…のか、解んねーよっ!!」
 そのまま……寝台の上にうつ伏せて、張り裂けんばかりに嗚咽を漏らす。
 そんな子供の様を前に、漸く肩から力が抜けた。


 痛みは……感じられる時に感じて、そうして流しておかないと―――きっと、壊れてしまうのだ。
 それを、僕は知っている。








...... to be continue


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