幻水1_6






 ずきりと…痛んだのは、何故なのか。
 痛みを感じているのはあの子供の筈なのに…。
 自分ではない筈なのに…。


 水晶が煌くシークの谷。
 膝を着いて、徐々に灰と化してゆく躯をその細い腕に抱き留めたまま、子供は唖然とその様子を見ていた。
 かつては人であった―――その屍。
 唯一無二の親友と言っていたその存在。
 目の前で消えて往くそれを、ただ見ていることしか出来ない子供。
 呆然と…その様子を見ている子供の姿が……痛みを感じさせる。
 風に攫われる灰と化した骸。
 攫われ尽くし、もう何も残ってはいない掌をじっと見つめ、そしてぎゅっと強く強く握り締め。
 瞼を落とし、深く項垂れて……ふらりと立ち上がる。
「……行こう」
 しっかりと顔を上げて、子供は踵を返す。
 ―――子供は知ったのだ。
 自分が託された紋章が、呪いのそれであるという事を。
 そして……その紋章が、戦を引き起こし大きくする事も。
 己の愛する者の魂をこよなく好み欲するという事実を。
 ただ淡々とし、表情を一切消し去ったかのような子供の様が、ずきりとした痛みを呼び起こす。
 こんな痛みを感じる事なんて、もうないと思っていたのに…。
 子供の所為だと思う。
 いつもは煩いくらいに心情を吐露するのに…。
 悔しさを、無念さを、憤りを―――吐き出し、隠そうともしないのに。
 ただ今ばかりは凍りついた表情で、静かに淡々と己が役割をこなそうとするから―――。

 だから………これは、あの子供の痛みなのだ。








...... to be continue


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