幻水1_5






 時間的には遅い夕食を取って、戻ってきた石板前には小さな人影が陣取っていた。
「……邪魔なんだけど………」
 ひと言ぼそりと言うと、石板をじっと見上げていたその小さな人影は、はじかれたようにこちらに視線を向けた。
「―――ック、」
 こちらの姿を認めると、ほっとしたように肩を落とす―――小さな…子供。
「何か用なの?」
 ここの所……正確には子供が従者を亡くしてからはたまに、そして自分の父をその小さな手に掛けた時期から頻繁にここを訪れるようになった。
 こんな場所に来たって……何も在りはしないのに?
 石板に刻まれていた従者の名は、その存在と共に消え失せ痕跡ですら残っていない。宿星ですらなかった父親は言うに及ばす―――だ。
 子供が何をしにここを訪れるのかが…解らない。
「………うん、」
 俯いたまま、何も言葉を返そうとしない子供。
 ………痩せた、んじゃないだろうか。
「ちゃんと食べてるの?」
 初めて会った時は、もっとふっくらしていたように思うけど。
「………う、ん」
 曖昧な返事に、むっと眉間に皺が寄るのが自分で解る。
「ちゃんと食べないと―――」
 ……何で、僕がこんな事っ。
「そう、だな…」
 言葉では肯定するのに、立ち去る気配さえ見せない。
 が、やがてぽつりと。
「ルック、一緒に食ってくれるか?」
「……今、食べてきたばかりだよ」
 そう言い放つと、再び項垂れる。
「そ…っか」
 あぁ、もう本当に冗談じゃない!
「食べてる間、傍に付いててやるくらいならいいよ」
 僕の台詞に驚いたように、勢い良く視線が戻ってくる。
 ……ってね、僕の方が”らしくなさ”に驚いてるんだけど?
 こんなの、僕の役目じゃない―――筈だ。
 しなけりゃしなくても、いいんだろうけど……。
「………余計な世話、やかせないでくれる?」
 半分嫌味込み言ってやったのに、子供は何となく嬉しそうに笑みながらこくんと頷いた。

 本当に……子供っていうのは、面倒だ。








...... to be continue


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