幻水1_4 「開けろ! グレミオ!」 握り締めた拳で、固く閉ざされた扉を何度も何度も殴りながら、子供はそれと同じ数だけ同じ言葉を扉の向こうに居る筈の従者に投げつけていた。 その悲痛な叫びが、鼓膜に突き刺さる程に響く。 「開けろよっ! ここ、開けろってば!!」 打ち付け過ぎた所為で皮膚が裂け、赤い鮮血が拳を赤く染める。 だけど、その様を見ても、誰も子供がそうするのを止められない。 この扉の向こう側では、彼の従者が確実にその命を蝕まれているのを知っているから……。 そして、その従者が己が命をかけてまで守りたかったのが、この子供だという事を知っているから…。 誰にも何も言えずにいた。 徐々に存在感を失ってゆく気配―――。 小さくなってゆく呟き。 それらが消え去ろうとした瞬間。 一気に膨れ上がった気配が、冷たい扉の向こうから何かに引き寄せられるかのようにすり抜けてきたのを感じた。 そして、子供の右手の甲へと……たゆとう様に吸い込まれ。 「………っ!」 驚いたように自分の手を見つめ、そして口の端を歪めながら、子供はその手を左手で包み込んでぎゅっと額に押し当てる。 「……ん、でだよっ!」 漸く己の許に戻ってきた従者を抱きしめるかのように…。 「何で、こうなるんだよっ!?」 響く慟哭に、その場にいた誰もが凍りつく。 誰もが、掛ける言葉を無くしていた。 「ばっかやろーーーっ!」 悲しいのは僕じゃない。 悔しいのも僕じゃ、ない。 ………なのに―――。 微かに胸に刺す痛みに、そっと瞼を落とした。 ...... to be continue |