幻水1_2






「―――ルック」
 塔の天辺で風を受け、視線を湖の水平線に馳せていると、レックナート様の声が耳元を掠めた。
 呼ばれている―――。
 そう感じて、御方の元に転移すれば、あの子供とその一行は呼ばれた先に居た。
 また、僕の方をキッと睨み付けてくる。黒い瞳が、印象的ではあるけど…。ただ、それだけの子供だ。
「……まだ居たの」
 もう、とっくの昔に帰ったと思ってたよ…。
「この方たちを送って差し上げなさい。いたずらは駄目ですよ」
「いたずらなんてしませんよ」
 ―――子供にはね。
 最後の一言は声には出さず、転移の術法を唱える。空間を渡る転移魔法で、自分が転移をする際に使う風とはちょっと違う。風は気まぐれだから、僕ひとりならどうって事ないけど、僕以外の他人を転移させるのには微妙にコントロールし難い。
 まぁ、子供以外にはやるけど?
 そう考えながら、送る際にひとつ気になる気配を持つ自分より3,4歳年上の少年の軌道をちょっと弄ってみる。された彼は、確実に落ちる―――だろう。
「………ルック」
 僕のその所業に勿論気付いているだろうレックナート様は、ふーっと深い溜息を吐いて星見の間へと誘った。
「レックナート様?」
 水晶の前に導かれて、 「ごらんなさい」 と促されるままに覗き込む。
 その水晶に映るのは、さっき僕が海岸に送ってやった面々。
「真なる紋章の気配、気付きましたか?」
 問われて、小さく頷く。
 気付かない訳、ない―――。この身に宿るそれが、小さく共鳴を響かせていたのだから…。
「……時期に星が集うでしょう。この紋章を軸に―――そして、この少年を天魁星として」
 レックナート様の言葉に、浮かび上がってくるその顔は……。
「……子供」 ―――だった。
「あなたも、星のひとつとしてこの地に降りねばなりません」
 ……いいですね?
 問い掛けられてはいるけど、それは決定事項を告げられているのと同じだった。
「…はい」
 依存はない。
 子供だろうと、何だろうと。
 それが僕の役割だっていうんだったら……。








...... to be continue


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