幻水2_10






 ティントは鉱山が主産業というだけあって、文字通り山々に囲まれた町だった。
「立て篭もるにはいい場所だからね」
 何故、ネクロードはこの地を選んだんだろうと首を傾げると、ルックはそう返してきた。
 ―――が。
「………息、上がってないか?」
 山越え前に休息をと、竜口の村で休んだきりの強行軍だった所為もあるだろうけど……。でも、女の子のナナミでさえ元気いっぱいで疲れた様子さえ見えないのに。
 体力ないのは相変わらずだなーと呟くと、ルックはむっとして睨み付けてきた。
「大きなお世話だよ!」
「怒鳴ると余計疲れるだろ」
「…………………も、いいから…黙ってて、」
 剣呑さを視線に込めたまま、言葉を交わすのさえだるそうに溜息を零す。
 そして、ふっとその視線を、俺達の前でティント市の代表者と話すザツとナナミに向けた。
 どこか訝るような探るようなそれが不思議で、 「…ルック?」 と小さく声を掛けると、
「………何でも、ないよ」
 ちらりとこちらを見やって、頭を振りながら再び溜息混じりに呟いた。



「……吸血鬼の癖に、朝っぱらから元気だよな」
 翌朝、ティント市はネクロードの訪問を受けた。おまけに、ジェスとかいう男にザツは絡まれまくってたし。事情が解らないからってだけじゃなく、そこまで首を突っ込むべきじゃないと自制する。
「全くね、朝から見たい顔じゃない」
「ルック、ネクロードにはキツイよな?」
「……別に。あーゆう、紋章に頼らないと生きていけない紛いモノは………嫌いなんだよ」
 視線を落してそう言うルックにいつもの燐とした風情はなくて、その違和感が警鐘のように胸に響く。
「…………ルック?」
 何だか、昨日から変じゃないか?
「―――変、じゃない?」
 刹那のルックの台詞に、ムチャクチャ驚いた。知らないうちに声を出してたのかと思ったほどだ。
「…っ、へ?」
 返事になってないそれに、訝しげな視線が向けられた。
「何、変な声出してるのさ」
「い、や……何でもない、けど」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、探るような瞳をかわして他所を見やる。
 声には出してなかったようだけど……。
 ふっと彷徨わせてた視線が、何気にナナミの姿を捕らえる。何かを思い詰めたような強い眼差しで、何かをじっと見つめていて。
 その先を辿ると、そこにはザツが居た。
 どうしてあんな真剣な目をして、食い入るようにザツを見ているのか。
「…………今夜、かな」
 ぽそりと呟かれたルックの台詞が、張り詰めた見えない糸の弦を爪弾いたような気がした。








...... to be continue


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