幻水2_11






 ―――保たないだろうね。

 木枠のがっしりとした窓辺に腰掛け、白い月の光りをその身に浴びながら、ルックは静かに言を繋ぐ。
「―――保たない?」
「気付いたんだろ、ナナミの表情」
 その事か、と思いながらも月明かりに照らし出されたルックから目が逸らせない。幻想的で、綺麗で………手を触れたら消えてしまいそうな儚さ。
「彼女は、自分にとって大事なものを知ってるから」
 だから―――。
「そういう人間が一番強い。自分の望みを知ってるって事はね、それを手に入れるまでの距離が一番近いって事だよ」
「…………逃げる、かも――って?」
「恐らく、ね」
 淡々と言い放つルックに、違和感を感じる。
「ルックは、それでいいのか?」
 そう聞く声音は、自分でも可笑しいくらい掠れていた。
「―――選ぶのは彼らだよ。僕はその行く末を見るだけだ」
 えっ? とルックを見やると、 「何さ」 と強い視線を向けられた。
「だって……天魁星行っちゃっていいのか?」
「逃げたかったら、逃げればいいだろ。それのどこがオカシイ?」
「………だって」
 それじゃあ―――。
 思わず言いよどんだ俺に、ルックは眉間の皺も一層深く溜息を零す。
「誤解してるかもしれないから言っとくけどね、僕もレックナート様にも未来を動かす力なんてないんだよ。ましてや、自分達の思いのままにヒトを動かせる訳じゃない。……それとも、」
 3年前、子供は自分の意志でその道を選んだんじゃない訳?
 ―――そう聞かれて、思わずうっと唸ってしまった。
 そうか……3年前の自分の選択をも、レックナートの所為にしてしまうとこだった。
 自分で選んだ筈の、その道をも―――。
「あぁ、ゴメン」
 素直に謝ると、 「…別に」 と素っ気無い返事が返ってきた。
「そういう選択肢だってあった、って事だよ」
 ザツにも、俺にも、あったんだって?
「………逃げないよ、俺は」
 アイツもな―――そう言うと、ルックはキッと小さく睨み付けてきた。
「子供はね、そうだったけど。ザツがどうして逃げないなんて言い切れるのさ」
「だってさ、一緒だもんな」
「何が、」
「どうしても裏切れないヤツが居る…って点が?」
 返した答えに、ルックが訝しげに眉根を寄せる。 「……何、それ」
「誰にだって、譲れないもんってあるじゃん」
「……訳解んないよ、」
 3年前によくルックが零してた台詞。変わってなくて、苦笑が漏れた。
「何、笑ってんのさ」
「いや、何かルックが”らしい”と嬉しいなーって」
 すると、ぐっとルックは言い詰まって。
 そして―――。
「”らしい”って何だよ」 と剥れた顔は微かに赤かった。








...... to be continue


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