幻水2_12






 3年前―――。
 そうして、この会えなかった3年間さえ。
 落ち込んでる時とか、もう駄目かも知れない…って諦めかけた時に、瞼裏に浮かんだのは自分よりたったひとつ年上なだけの風使いの姿で。
 自分の記憶の中の彼は、じっとその深い翡翠の瞳で見つめてきた。
 視線を逸らす事もせず、何の表情をも浮かべず―――ただ、じっと。
 その強い視線を見返してたら、不思議と逃げるなんて選択肢はなくなってた。
 だって、逃げたら……何もかもお終いだ。
 それは、これまでの自分の選んだ道を、自分で否定する事だと思った。
 それに――――――。
 逃げたら、ルックに逢えなくなる。
 迷いのない純真なあの瞳を、真正面から見返せなくなるのだけは、絶対に嫌だった。





 思いも寄らぬ場所で、思いも寄らぬ人物に出くわしたことで、二対の目は驚愕に見開かれ。それでも、僅かばかり後自分を取り戻した少女は、たったひと言。 「止めないで」
 強い口調で、こちらが言葉を発するのを遮った。
「決めたんだから」
 微かに震える声音で、それでも後戻りは出来ないと告げる。
 恐らく、ザツを信じ付き従ってきた者なら激昂するだろう。だけれど、彼らの選んだ道を推し進めようとするナナミにルックが向けたのは、ただ淡々とした一切の感情を窺わせない翡翠。
「引き止めないよ? そんなの今のあんたたちには無意味だから」
「無意味、って」
 ザツの掠れた声音は、明らかに狼狽し、強張っていた。
「あんたが選んだんだから」
 ―――その道を、と。
「でも、教えて……」
 今まさに全てを脱ぎ捨てて出て行こうとしているザツとナナミに、ルックは静かに尋ねる。
「………なに?」
 微かに震えているザツの声音。揺れる瞳は、まだどこかで彼が全てを捨てきれず悩んでいる事を如実に現していた。
「君たちが、何を得るのか。何を欲しているのか……後悔しな――」
 ルックの翡翠の瞳を見続ける事は、きっと今のザツには出来ない。悩み捨てきれてない彼には……。
「―――ルック君!」
 そんなザツの揺れる思いを知リ尽くしているだろうナナミが、悲壮な面でルックの言葉尻を奪う。
 必死なのだろう……これ以上失わない為に、と。
「止めないで……? 欲しいのは、昔みたいに皆で笑って過ごせる時間だよ? 後悔なんてする筈ないじゃない」
 ナナミの言葉に、ルックはすっと目を細めた。
「止めないって言った。星の任を担う気のない奴を引き止めたって、それは星そのものの思いとは違う。だけど―――」

 ―――それで、あんたたちは本当に笑って過ごせるの?








...... to be continue


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