幻水2_13 「行けないよ…ナナミ」 行き着いた竜口の村で、ひとり(?)の軍人の死を知らされ、そうしてザツは 「逃げよう」 と必死で懇願する姉の言葉にきっぱりとそう返した。 「ザツっ?!」 どうして! ―――ザツを見つめるナナミの必死の瞳がそう問うていた。 「本当はね、ちゃんと解ってたんだ」 「…何、を?」 「逃げちゃいけないんだって……事」 そう言って、ザツは俯いていた面を上げて、綺麗な迷いない瞳でナナミを見つめる。 「だって……ジョウイをひとりに出来ない」 「―――ザツ」 「だって……ジョウイはひとりだよ。ずっと、ひとりで戦ってるんだよ。これ以上、ひとりでなんて……戦わせられない」 泣き笑いのような顔。 「ジョウイを置いて逃げるなんて出来ない…って解ってたんだけど……」 でも、笑顔を失ったナナミにそれを取り戻せるのなら、とも思ってしまった。 「誰にもジョウイを討ち取られるなんて事、させられないしさせない。どうしてもやらなきゃならないんだったら、―――ボクがやる」 強い意志と強い想い。 きっと、ずっとザツは考え続けていたんだろう。 「だから……ゴメンね、ナナミ」 「…………どうして、」 「だって……逃げたら、もうジョウイには逢えないよ」 弾かれたようにザツを見て、そうしてナナミは唇を噛み締めた。 「諦めたくないよ、ナナミ」 ―――ザツは3年前の自分だ、と思う。 諦める事は、手放す事は簡単で…だけど、それをしたら終わりなんだって事を知ってる。 諦めたら、欲しいものは絶対に手に入らないんだって事を。 「だから……帰ろう、ナナミ」 そう言い切ったザツの面は、それでも小さく笑みを刷いていて。決して彼が弱くもなく流されてここに居る訳でもないんだって事を、知らしめていた。 「な、言ったろ?」 隣りに立ってじっと天魁星を見つめるルックに囁くように言うと、ふんと小さく睨み付けてきた。 「で、こその天魁星だろ」 全く”らしい”台詞に、自然と顔がにんまりとにやけてくる。 「何、嫌らしい顔してんのさ」 うんざりとした態で言われ、そこまで”らしく”なくてもいい―――とは、流石に言えなくなった。 「帰りましょう、ソウさん、ルック」 掛けられた言葉に、あぁと頷いて 「帰るぞ」 とルックに視線をやる。 「………………何で子供に言われなきゃなんないのさ」 辛辣に言いながら、それでも隣りを歩いてくれてるから。 そんな些細な事だけで嬉しくなった。 今いるべき場所へ、帰ろう。 ...... to be continue |