幻水2_14






「ナナミーーーーーーーーーーー!」

 耳を突いたのは、血を吐くような絶叫。
 いつも穏やかな笑みを浮かべているザツの横で、城中に元気を振り撒いていた太陽のような姉が。
 その日、皆の前から姿を消した。




 いつもはざわざわとして落ち着きない石板の置かれた広間。
 石板前の段差を椅子代わりにその場に腰を下ろしたまま、視線だけで周囲を窺う。
「空気が重いな……」
 ナナミを亡くした城は、その火を落してしまったかのようにしんと静まり返っていた。亡くして、その存在がなくなって、始めて彼女がどんなにこの城の皆から愛され慕われていたのかが解る。
「………帰ればいいじゃない」
 あんたが居る必要ないんだから。
 そう言われ、些かむっとして、立ち尽くしたままのルックの顔を仰ぎ見る。

 だけど、言おうとした言葉は出てこなかった。
「……何さ、」
 感情が抜け落ちたかのような視線と声音に。
「ルック?」
「ザツは―――」  問いかけようとした刹那、ルックの口から零れた名に、一瞬躊躇する。
「後悔……してるかな」
 ぽそりと呟かれた台詞に、一瞬胸が痛くなった。
 逃げていれば……失わずに済んだかも、って?
 だけど。
「―――ザツはきっと…逃げられなかったさ、」 この結果が解っていたとしても。
「…………そう」
 子供が言うんだからそうなのかもね。
俯 いたままのルックの面は白く、どこか泣きそうに歪んでいた。
「ルック」
「……僕は、憧れてたのかも知れない」
 まるで生そのもののような彼女の存在に。生きてるって、彼女のような人の事だと思った。
「………そうだな」
「憧れて……そして、疎ましかった」
 どこか虚ろな自分に、生命の力強さを見せつける存在が。
 立ち上がって、そして今は見下ろすばかりの小さなその身体をそっと抱き締める。
 腕の中にすっぽりと収まってしまう華奢な身体は、瞬時ぴくりと竦んで。そうしてゆっくりと解けた。
「……なのに、何で痛いんだろう」
 胸許に微かに響く声は掠れていた。

 不器用にも程がある。
 何で泣かない?
 どうして、溜め込む?




 何をそんなに……怖がってる―――?








...... to be continue


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