幻水2_15






 城の中が、人の心の内が……ざわつく。
 こんな雰囲気は、3年前嫌という程味わったもので。
 正直、一時でもこんな場所には居たくないと思った。
 ―――だけど。
 こんな痛ましげで無防備に近いルックの有様を目の当たりにして、離れられなくなった。




 腕の中に囲い込んでも成すがままでいるから、泣いてるのかと思った。そっと窺うと、深く落した瞼は微かに震えていたけれど、その目許に涙はなくて。
 それが余計痛くて、腕に力を込めれば、その身は弾かれたように跳ねて―――そうして、ぐいっと胸元を押し返してきた。
「ルック?」
「………行かなきゃ、」
「何処に?」
「……あいつのとこ」 そう言って、翡翠の瞳で見上げてくる。
「混乱してる。自分を責めて、どうしていいか解らなくて……ひとりで迷ってる」
 ルックの瞳には、ちゃんと俺が映っているのに、それでもきっぱりと言い切るから。
 そう言って、風を纏おうとするから―――。

 …………置いて、いくのか?

「ーっ、何」
 困惑したような声音と驚いたような翡翠に我に返った。
「……えっ?」
「何、やってるのさ」
 訝しさを増したルックの言葉に、己の所業に漸く気付く。
 ルックの二の腕を掴んで、咄嗟に引き止めていたという、それに。
「あっ………悪ィ」
 殆ど無意識下でやった事に、取り敢えず謝った。
 けど……。
「離しなよ」
 ただ細いだけのその腕を、
「……子供?」
 離す事が…出来ない。
「ザツは大丈夫。自分で選べる―――」
 自分の進む道を違うことなく。
 竜口の村でのザツの決意は、例えナナミの死でさえ曲げる事など出来ない。これ以上、大事な人たちを失う事を恐れているだろうザツが、逃げる筈なんてない。ジョウイという幼馴染を置いていく事など、ザツには出来ない。
 ザツは、絶対に諦めない。
「………だって、」
 ―――だけど、ザツを信じる以上に。
「で、こその天魁星だろ?」
 ルックを、傍から離したくない。
 これが、自分のエゴだって事を、知ってる。
 でも、こんな己の勝手を……知られたくない。
 だから、唐突に話を転換する。
「ルックはマメだよな」
 3年前も、今も。
 自分だって、俺に抱き締められても拒絶できないくらい疲弊していたのに、どうして他人の面倒まで見るんだ。
「マメって…ね。こんな事、あいつが天魁星じゃなきゃやんないよ」
「自覚ないだけじゃないか?」
 勿論、天魁星の所為もあるかも知れないけど。自分に関わるのは拒絶するくせに、自分から関わるのはそうでもない、って事に。
 あぁ、これって結局嫉妬、なのかも……知れない。
 だけど、止まらない。
 ルックが自分以外のヤツを見ているのが、堪らなく不快だしイライラする。これが、嫉妬だって事くらいは、解る。
 俺は、ルックの視界に自分以外の誰か…が、入り込むのが嫌なんだ。








...... to be continue


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