幻水2_16






 穏やかな笑みは、何かを決意した者のそれで。
 あぁ、やっぱりこいつは逃げなかった―――と、ただそう思った。



「最後の決戦です」
 ハイランドの皇都であるルルノイエへの侵攻を果たしたザツは、その皇城内へ共に行って欲しいと告げてきた。
「皇都を陥落して、この戦争を終わらせます」
「…………そっか」
 潔いまでの決意に頷けば、ザツは有難うございます―――と小さく笑んだ。


 骨を砕く腕に伝わる手応えと。
 呻く声と、零れる安堵の溜息と。
 周囲に立ち込める、血の臭いが―――この場は戦場なのだと、今更の如く知らしめる。そうして、改めて麻痺しかけた感覚を呼び戻した。
 そう、戦場なのだから。
 命のやり取りをするのに、言い訳を許すような闘い方をする訳にはいかない。
 目の前に立ち塞がり刃を向けてくるのは、本当に敵なのか。
 守りたいと願ったのも、信じるものの為にその手を血に染めたのも、結局は同じなのに。方法は違えど、その思いに違いなどないのに。
 吹き荒れる呪術が、振り落とす武器が、響き渡る剣の硬質な音が。
 その全てが、哀しいモノだと皆知ってるのに。
 それでも、戦わずにこの戦乱を終わらせる事など出来ないのだ。
「大丈夫か?」
 度重なる小競り合いに肩で大きく息を吐いたルックに問えば、 「誰に言ってるのさ」 と、辛辣な瞳で返された。
「ルックv」
 魔力は兎も角、体力ないから。
「………悪かったね」
 むっつりとした態を隠しもせず睨み付けてくるから、にっこり笑って見せれば、不本意そうに視線が逸らされた。
 ルックは3年前よりも、色んな顔を見せてくれる。
 っていうより、――あの頃には持てなかった余裕のお陰で――俺の方の視界が広まった所為だろうか。
「ほら、ヘラヘラしてないでさっさと行くよ!」
 再び歩み始めたザツ達を視線で指しながら、苛立たしげにそう告げてくるから、 「解ってる」 とその後を追った。





 もうすぐ、終わりの時を迎える。
 そうしたら―――。

 ―――彼の傍には、居られなくなる?

 今まで考える事そのものを拒んでいたそれ。
 当然の如く導かされた答えは、恐怖以外の何ものでもなかった。








...... to be continue


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