幻水2_17






 戦乱の終結は、そのまま俺とルックにも云えるのか。



 血を浴び、具現化した獣の紋章。
 獰猛な獣が求めたのは、一体何なんだろうか。
 戦乱? 恐怖? ……流される血?
 それが最後の咆哮を上げ、失われる衝撃で崩壊する城。
 それを目の前で見、―――これで全てが終わったのだと、勝利をおさめたのだと信じなかった者が、果たして何人居ただろうか。
 勝利した喜びと戦い終えた歓びに沸き立った同盟軍内の何人の者が、当然ある筈のその人物の姿がない事を訝しんだだろう。

 少なくとも、同盟軍を勝利に導いたザツの面に浮かぶそれは、笑みには見えなかった。





 同盟軍の本拠地へと帰還したのは、出陣した数の6割に満たなかった。尤もそれは、2割を皇都ルルノイエに駐軍させて、の数ではあったが。
「ザツは知ってんのかなー?」
 皇王があの場に居なかった理由、そしてその居場所を。
 ポツリと呟くと、ルックはちらりと視線だけをこちらに向けてきた。
 ざわざわと落ち着かない浮き足立つかのような周囲の空気。それは歓喜に満ちていて、長い戦乱が漸く終わりを告げた事を祝うものに他ならなかった。
 3年前は厭わしかったそのざわめきが、今は他人事として感じられる所為か、結構心地いい。
「……だろうね」
 じゃなきゃ、あんなに冷然としてられる筈ないよ。
「だよなぁ」
 ザツがこの戦地で求めてきていたのは、姉以外ではその人物だけだったから。
 恐らく、戦況も勝利もザツにとっては二の次だったと思う。
 人間なんて、そんなに聖人然としたモノじゃない。
 そんなに思い切れるもんじゃない。
「………ザツも行くのかな」
「さぁね」
 少なくとも、このまま流されるままに、この地を統べるなんて事だけはしなさそうだ。あいつの望んだものが、そんなものじゃない事だけは、知っているから。
「……あっ」
 小さく零れたルックの声に、ふっと視線を上げると、階段を降りてくるザツの姿が視界に入ってきた。
「ソウさん…、ルック」
 どこかほっとしたように、ザツの小さな肩が落ちた。








...... to be continue


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