幻水2_18






 ルックと変わらないくらいの背丈だったんだ、改めてそう気付く。いつもは、そうとは感じさせない程に大きく見えていたから。
 始終張り詰めていた所為なんだろうけど。
 3年前の自分がそうだったから、今のザツの気持ちは解るような気がする。

「終わりました」
 俺達の前まで歩み寄ってきたザツは、そう言って微笑を浮かべる。
「有難うございました、ソウさん。……ルックも」
 本当は笑ってなんて居たくないだろうに、それでも笑む様が痛々しくて……見てる方が辛くなる。
 ルックもそうだったのか、半ば睨むようにザツを一瞥した。
「僕は僕の役目を果たしたに過ぎないよ」
「うん、そうだけど……」
 辛辣に返された台詞に苦笑いを浮かべる元軍主に、ルックは幾分翡翠の瞳を緩めて、それでもじっと目の前のザツを見つめたまま、
「―――行かないの?」 とひと言だけ呟く。
「………えっ?」
 びくっと弾かれたように竦む、ザツの小さな身体。そんなある意味あからさまな態度に、ルックは目を眇めて……だけど、呆れた声音そのままに問い掛けた。
「何を迷ってるのさ」
「…ルック」
「君がしたいようにするといい」
「……うん、だけど―――」
 どうしたらいいのか解らないんだろう、俯くザツに、
「こいつなんて、解放戦争終わったと同時に出奔したよ」
 と言って、俺を指差す。
 ………ま、本当の事だからいいけどな…。
「君が無理してまで、新しい国の礎になる必要なんてない」
 君は君の役目を、多くの人々の願いを叶えたんだから。これ以上、星の課した過去に囚われてやる必要なんてないよ。
「待ってるよ、きっと―――」
 ルックの言葉に、ザツは弾かれたように面を上げた。
「待ってる……?」
「君とあいつの求めてたものは、きっと一緒だから」
 求めていたのはきっと同じで。
 だけど、その道を違えただけなのだ。
「……行ってもいいの、かな」
「君が行きたければ、ね」
 何も縛るものはないんだと、望むがままにと。
 ルックの言葉は、至極無愛想で不器用で…そして優しい。
「……うん、有難う」
 満面の笑みを浮かべ、ザツは俺の方に向き直る。
「ソウさんも、有難うございました。……着いて行って欲しいけど、邪魔しちゃ悪いからここで失礼します」
「―――ちょっ!」
「あぁ、行ってこい」  怒鳴りかけたルックを遮って、ザツに片腕を上げて見せれば、腰を曲げて深々と一礼して駆け出して行った。
 その様は、まるで全ての戒めから解き放たれたかのようで―――。
 どこか憮然とした表情のルックと一緒に、それを見送った。




 きっと―――ザツの想いは、届く。
 そう理由もなく信じて。








...... to be continue


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