幻水2_19 勢いよく走り去っていく星の任を解かれたザツの後姿は、全てのモノを吹っ切った者のそれで。 正直、そこまで強くあれるザツを羨ましいと思った。 「行ってやらなくていいの?」 そう小さく問うてくるルックの声音が、どこか躊躇いを含んでいると感じるのは、単なる思い過ごしなのかも知れない。 「……ザツは、ずっとこの戦争中、人の中で誰彼に一挙手一投足見られ続けながら過ごしてたんだから、戦争が終わってまでそれに晒される事ないんじゃないかって思ったんだ」 それに―――と、ルックの視線がこっちに向けられたのを感じながら、言を繋ぐ。 「最後の決断の瞬間くらい、自由にさせてやりたいだろ」 自然に、人の目など気にしないで、ザツにとってのザツなりの決着を選び取って欲しいと。 「…………知って、たんだ…」 「3年間、色々調べたからな」 己を宿主と定めたソレの正体を知りたくて。ザツの『輝く盾の紋章』と幼馴染の『黒き刃の紋章』のふたつが、元はひとつの紋章であるという事実も、その時知った。 それがひとつになる時に―――贄が必要だという事も。 「知ってて……ひとりで行かせるんだ」 「ザツは見誤らないって信じてるから、だろ。それに―――」 真横のルックに視線を戻し、にっかり笑う。 実際のところ、自分のことに手一杯で、他人に拘わってる余裕なんてないっていうのが本音、だ。 「……何さ」 眉間の皺もより一層深く、心底嫌そうに尋ねてくる。 「ルックと少しでも一緒に居る事v」 だって、本当の最後かも知れないから。逢いたいと思ってるのは、自分だけで……ルックはそうじゃないかも知れない。 再会した時に、ルックが見せた躊躇いを…あからさまではない拒絶を、考えないようにしてただけで忘れてた訳じゃないから。 ―――逢えなくなるんだ。 ルックは、星としての役を終えたから。 この場に留まる意味など、今の彼にはないから。 俺の存在など、ルックにとって引き止めるものにすらならないって知ってる。 諦めないとは思っていても、逢えない時間という壁は目の前に立ち塞がってるから。 「………だって、行っちゃうんだろ」 もうすぐ。 すぐそこに―――別れの時が静かに佇んでる。 ...... to be continue |