幻水2_20 共に居られる時間は、もう、そう長くはない。 「……、何て顔してんのさ」 どこか驚いたようなルックの声音で、俺は自分が酷く歪んだ顔をしているのに気付く。 「こんなとこで泣いてンじゃないよ」 「…泣いてなんか、」 「ないっていうんだったら、鏡見てきたら?」 「……………ルックは!」 何とも思わないのか―――。 逢えなくなるのに。 今離れたら、今度は何時逢えるかも解らないのに? やっぱり、そんな風に思ってるのは俺だけなのか。 一人相撲の想いでしか、ないのか。 「ルックは、逢えなくなっても平気なんだ?」 「………僕がいつ、君を必要だなんて言った?」 「―――ッ!」 冷たい言葉が、胸に刺さる。 「僕は、何も必要じゃない。……何も要らない」 「どうしてっ!?」 ルックが俺を必要としてない事なんて、知ってたけど。 俺がルックに与えられるものなんて、ないって事解ってたけど! 「―――泣くなって、言った!」 「仕方ないだろっ」 「ルックの事が好きなんだから!」 「っ、要らないよ! 押し付けないで」 キッと睨み付けてくる翡翠の瞳が、朱い焔を纏う。 「想ってくれるのは、結構だ。だからって、それを押し付けようなんて思わないで」 投げ付けられる言葉は痛い。 「だってッ」 なのに、それを言う本人が、何故そんなどこか泣きそうな表情で睨み付けてくるのか。 「仕方ないだろ、それでも好きなんだから!」 遠くからじっと見守って、なんてそんな大人にはなれない。 「……っ、困…るんだよ」 そういう翡翠が痛ましげに歪んで。 「そうさ、困ってるんだ! 子供なんて僕には必要ないのに! ―――ない筈なのにっ!!」 そう怒鳴ってから、一層きつく睨み付けてくる。 「どーしてこんな要らない感情、覚えさせてくれんのさ!」 子供が居なければ、こんな自分で制御できないような感情を覚える事なんてなかったのに、と。 「……ルック、それって―――」 「っ、知らないよ!?」 恐る恐る尋ねようとしたら、真っ赤な顔で拒絶された。否、拒絶っていうのとは、ちょっと違うけど。 それに、俺なんて必要ないって言いながらも、その顔は真っ赤に染まってるし。それって―――。 「知らなくないだろ、それって! 俺の事、」 『好き』ってこと? 少しでも、気に掛けてくれてるって……そういうこと? 「―――っ、」 余程聞かれたくなかったのか、ルックは咄嗟に転移の呪を成して。 興奮しきっていた俺が伸ばした手は、その素早過ぎる逃げに間に合わなかった。 だけど、転移間際のルックのあの顔は………? ...... to be continue |