幻水2_3






 現・天魁星の名はザツと言った。

 彼から 「この部屋使って下さい」 と、案内された部屋は貴賓室らしく、綺麗に清掃されていた。
 陽の匂いを吸ってほかほかと暖かい寝台上の掛布に、勢い良く飛び込む。
 ほう〜っと深い溜息が零れる。


 今の自分の思考を埋めているのは、戦争の事でもなく手を貸すと約束したザツの事でもなく、ただひとり………ルックだけだ。



 綺麗に、なってた。

 その翡翠の瞳に見つめられると、視線を逸らしてしまいたくなるほどに。
 だけれど、そんな事実際には出来るはずもなくて。
 ただ、食い入るように彼を見つめ続けた。
 3年前から、ずっとずっと見つめ続けてきたのだ。
 会えなかった3年間でさえ、彼のことをずっと想い続けてきた。
 あの、己を惹きつけて放さない瞳。
 いっそ凶悪なまでに綺麗に整った造作。
 その皆には反感を買いかえない冷たいと囁かれる毒舌でさえ、好ましかった。
 子供らしい潔癖さで、自分は彼を好きだった。
 会えない時間が長ければ長いほど、この想いは消えて思い出に変わるのかもしれないと思っていた。
「―――ルック」
 3年前は、確かに自分は子供だった。
 13歳という年齢が、ルックに自分を庇護する責任感を沸かせたということも、ちゃんと分かっていた。
 だけど、そうと知っていながらも、彼に惹かれることを制御できなかった。
 勿論、いくら軍主とはいえ、たかが13歳の子供の求愛などあの彼がまともに受け答えすることなどある筈もなくて。
『大きくなって出直して来なよ』
 痛烈な一言で撃沈した。
 彼は知ってる筈だ、その身を持って。
 真なる紋章を宿した自分が、それ以上成長することなど有り得ないということを。自分以上に、知り尽くしている筈だ。
 だから、解った。
 彼は、自分が彼に望む形とは違う視点から、己を見ているのだという事が。
 ルックが傍に居てくれるのだったら、それでもいい……と、そう思っていた筈なのに。
 祖国から逃げ出して…そうして、この身を拘束する何もかもを殺ぎ落とした。
 だけど、たったひとつ失えなかったのは、ルックへのそれだった。
「きっと、又逢える…」
 そう、何の確証も保証もなく、ただ信じていた。
 人の思いは力になる―――そう自分に教えたのはルックで。
 だから、ただひたすらに願った。
 留まらない時を……と。
 この呪われた身の上にも、人と同じ時間を……と。
 そうして俺は知った。
 ルックに告げられた言葉の意味を。
 人の想いの強さを。


 でも………漸くこれで、彼と並び立てた。
 3年前の台詞が、外見のみに向けられたそれでないって知ってるけど…。
 それでも、取り敢えずはルックへの想いを形に変えたのだから。
 その位には強い想いだったのだから。
 それを形にすれば、この想いを信じてくれると言ったのに。

 ―――なのに……。
 どうしてルックは、あんなどこか途方に暮れたような瞳をしていたんだろうか。








...... to be continue


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