幻水2_8






「悩みっていうのか……な」
 っていうのとは、ちょっと違うかも知れない。
「3年前さ、軍主なんてやってたけど、あそこの砦正直居心地悪くてさ」
 ―――ずっと、あそこは自分の居場所じゃないと思っていた。
「でも、何でか一箇所だけ気が休める場所があったんだ」
 それが、ルックの傍だった。
「その場所にはずっと……ルックが居て、だけどルックってあんなだから最初は場所とか石板の所為かと思ってたんだけど」
 違ってた―――。
「俺、そん時はルックの傍が何で居心地いいのか解らなくて。人に聞いたら、好きだからじゃないのかって言われて」
 漸く、自分の気持ちに気付いた。
「でも、…………ルック男だし」
「知ってますし、いいんじゃないでしょうか?」
 それまでは黙って聞いてたグレミオから返ってきた答えに、驚いて顔を見上げる。
 そこには、やっぱり穏やかな笑みがあって。
「坊ちゃんの性格からいって、紋章を外すなんて事しないでしょうし。だったら、自分の子供なんて作る気もないでしょ?」
 ……そんな事考えた事もなかったけど。
 だけど―――。
 例え宿した紋章が呪いのそれではなかったとしても、紋章に魅入られたこの身体でそんな事を思う筈もない。
 自分より確実に先に往くだろう命を、それと知って生み出すなんて出来ない。
 失う事―――それ自体に、身体が強張るほどの恐怖を感じる。
 今は傍に居てくれてるグレミオさえ……そう遠くはない近い将来、自分を置いていくのだ。
「だから、坊ちゃんが一番望む人と一緒に居てくれたらグレミオも嬉しいです。傍に居たい人を見つけてくれた事、それが私が生きてる間だった事、それだけで。……こんな事を言ったら不謹慎かも知れませんが、ルック君なら私達のように坊ちゃんを置いていく事はないでしょうから」
「…………………」
 そう、少なくても時間的にはそうだ。
 だけど……。
「そんな事で、ルックを好きになったんじゃない」
 気付いたら気になってた。
 目で追い続けて……そうして、囚われてた。
「解ってますよ。坊ちゃんはそんな器用な方じゃないですから」
 だから、いいんですよ―――。
 そう言って微笑むグレミオを前にして、もう何も言えなかった。








...... to be continue


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