例えば こんなふたり − 8






 石板の間―――崩壊。
 という、心の臓が凍り付くかと思われるくらいの衝撃的な報告があったのは、ルックを置いての遠征から帰還した直後だった。
「で、ルックはっ?!」
「彼は無傷です…が、自室で休ませています。崩壊による怪我人は4名、全治2ヶ月という診断で―――イチイ殿!」
 マッシュの言を聞くや否や、ルックの部屋へと向かう。
 無傷だっていうんなら、どうして部屋で休んでるんだ?
 ちゃんと、自分の目で見て無事を確認するまで、安心できない。
「ルックーッ!」
 ノックもそこそこに、さして広くもないルックの部屋に正に文字通り飛び込む。
 見慣れた殺風景な部屋の寝台上には、大きな目を見開いて驚いたように硬直しているルックの姿。
「ルック、無事っ?!」
 駆け寄って、触れようと伸ばした手は。
「――――――っ、や!」 何故か、小さな身体を強張らせて拒絶の意を示すルックに、触れる事が出来なくなった。


 明らかに青褪めた面に、伸ばした手が行き場をなくして震える。
「…ルック?」
「―――あんたがっ、」
「えっ?」
「あんたが居なくて寂しいだろうから……相手してやるって」
 ぎゅっと唇を噛み締めて、ルックは小さなその身体を強張らせた。小刻みに震える握り拳を、居た堪れなくてそっと自分の掌で覆う。
 咄嗟に退かれそうになり、微かに力を強めて逃がさせなくし。
「大丈夫だから…」 と、瞳を捉えたまま言い聞かせるように呟いた。
「…誰?」
 抑え切れない怒りのままに問うと、知らない奴等だと頭を左右に振って教えてくれた。
「口押えられて…術発動できなくて。3人がかりで圧し掛かられたら逃げられなくなった」
 気丈にその時の状況を述べるルックの、握り締められた小さな拳には色もなく。怒りと躊躇と、様々な感情を孕む翡翠は、常にはない外されたままで。
 ルックの瞳は、深い深い翡翠色で。その視線が彼の方から外された事なんて、僕の記憶では一度だってない。
 だから、それだけでルックがどれほどに憤りを、恐怖を感じたのかが、容易に窺い知れた。
 普段しっかりし過ぎてる上に、僕にでさえ弱みなんて絶対に見せなかったから……忘れてたけど、ルックはまだ14歳の子供でしかない。
「ごめん、怖かったよね」
 抱き締めた腕に、力を込める。
「駆け付けてあげられなくて…ごめん」
 小さな身体の強張りが解けて、そうしておずおずとながら縋り付いてくるまで、じっと抱き締めていた。








…… to be continue


 坊さまとルック以外に、初めて台詞ある人が出た気がする…。←気の所為でない

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