日常の終わり 【2】 帝都をグレッグミンスターに据える赤月帝国。 その華やかさは、流石帝都というしかない程に。 16回目の生誕日を機に、テオ将軍の一粒種トウ・マクドールは栄えある近衛隊に着任した。 初任務は、星見の結果を受け取るという、所謂お使い。 憤慨する私兵をよそに、トウ・マクドールは 「…………竜」 力強く羽ばたきを繰り返す竜らしきそれをじっと見ていた。 「で、魔術師の塔っていうのはどこにあるんだ?」 あまり乗り心地がいいとは言えない竜の背で、トウの友人テッドは訊ねた。 「それだったら―――」 「……この地上のどこか」 竜騎士であるフッチ少年は、言い掛けた言葉を飲み込んでそう言った近衛兵を凝視した。 どうリアクションを返していいのか、微妙な顔つきをしている。 「って言って、クレイズに怒られたじゃないか」 呆れたように肩を竦めるテッドに、フッチとトウ以外は苦笑を零した。 浜辺で待機しているというフッチと竜に一時の別れを告げてから、深い森の中を進む事数刻。 途中遭遇した魔物との戦いも難無くこなした一行は、唐突に拓けた場所へ出た。 今まで深い森特有の薄暗い細道を歩いて来ていた視界に、入り込んでくる日の光に目を細めた彼らの前に、 「……あっ、」 幼い、だけれど目を奪われるには充分過ぎるほどの少年がひとり佇んでいた。 雪を模したかのように色味を感じさせない白い肌と、強い意志を垣間見せるかのごとく煌く翡翠の瞳、綺麗に描かれた鼻梁と赤い唇は薄く際立ち。 その翡翠が挑戦的に眇められ、唇が口角を上げて挑発的な笑みを浮かべてさえ居なければ、森の精霊だといわれても頷けただろう。 それほどに、その存在は目を惹いた。 「こんな辺鄙な島にお客様とは、珍しいな」 高めの声が、耳もとを撫で届く。 「早速、おもてなししないとね」 それがレックナートさまの言い付けでもあるし―――と、少年の心中で呟かれた言葉を聞いたものは幸いな事に皆無だった。 身の丈以上もある棍を軽々と扱い、黙々と目の前の敵・クレイドールを屠る一行のリーダーらしい年若い男の身のこなしに、けし掛けた張本人であり傍観に徹していたルックは、軽く目を見張った。 「へぇ、案外やるじゃないか」 色々な意味で面白そうな一行だと、最後の一撃を食らわされ霧散してゆくクレイドールを視界に収めながらも、口端を上げた。 「凄いね、君たち。僕の術を破るなんて、流石は帝国近衛隊というところかな」 ま、この程度でくたばられちゃ目も当てられないけど…と、過去の目も当てられない状態にまで追い込まれた少なくはない使者達を思い出し、小さく肩を竦めた。 「あんなのをいきなりけし掛けるなんて、どういった了見だ」 「まぁまぁ、そう興奮しないで下さいよ。ねぇ、お兄さんたち。本物かどうか試しただけです」 尚も何か言い募ろうとする大きな男を、唯一の女性が諌めているのをいい事に、そろそろ頃合だろうとルックは塔への道のりを示した。
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