例えば、こんな話 − 事と次第 12 「サクラー、お客さんv」 室内に声を掛けてから、テッドは扉に添うように道を開いた。今日は、生徒部会長と他にふたりほど、在室していた。 それまで目を通していたんだろう書類を手にしたままの生徒部会長と数人の視線が、躊躇う事無く室内に入り込んだこちらに向く。 「あぁ、ルック」 自分に向けられた黒曜石の瞳があまりに柔らかに和んでいて、咄嗟に言葉に詰まる。 昨日まみえた彼とはまるで別人のような、気さえする。 「もしかして、返事?」 問われて頷くと、昨日同様部会長室に促された。 「仕事中じゃ…」 「うん、大丈夫。彼等だけでやれない仕事じゃないし、テッドも来たしね」 何でもない事のように言いながら、扉が閉じられる。そのままソファーへと誘われそうになり、 「返事、だけだから」 と、閉じられた扉の前に佇んだままそれを拒んだ。 「じゃあ、訊かせてくれる?」 「受けられない」 きっぱりと、言葉にして言い切った。曖昧に誤魔化すだけでは、この男には通じない。 「そう、それは残念だ」 淡々と告げられる意とすっと眇められた瞳が、居心地の悪さに拍車を掛ける。 「良ければ理由なりとも教えてもらえる、かな」 「………興味ない」 そのひと言に尽きる。学校行事とか、生徒部会とか。面倒だと思う以前に、興味がない。やりたい奴らがやればいい、とも思う。 「だったら、君の後輩に頼もうか」 「―――ッ、」 「幸いというか、この生徒部会は成績優秀な者だけで成り立っている訳ではないしね」 人を小馬鹿にしたような言い様に、殺気さえ覚えて。 「あんた、脅してるの」 これ以上もない怒気を孕ませて睨めつけたにも関わらず、返って来るのは何を考えているのか解らない、笑み。 「そう取ってもらっても、構わない」 「………」 さもなく肯定される。 この男の目的が何なのか…判断できなくて、イライラする。 鮮やかなまでに先に先に回り込まれて、逃げ道さえ絶たれている状態に等しい。 これが己に関する事でなければ、そのあまりに見事な手並みに賞賛さえおくりたいくらいだ。 「…………ひとつ、訊いていい?」 横柄なまでの態度でひとつ頷く男にひたり視線を向ける。 「僕らが通っていた学校の買収、あんたの差し金?」 ...... to be continue
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