例えば、こんな話 − 事と次第 16 「結果、ルックには人身御供になってもらった感が否めないけど。あいつ、嬉しそうだったから。母親代わりの使用人や親父さんと居た時でさえ、あんな幸せそうな顔してるあいつなんて、見たことなかったから。ルックにはちょーっと悪いかなとは思ったけど。―――俺達、後悔してないんだよな」 ―――だけど。 「そんな身の上話になんて……絆されないよ」 だったら、僕の意志とか感情とかどうなるのさ。 「あいつ、根性捻れてるけど本当はいいヤツだぜ?」 「……それは、嫌う理由として結構大きな比重を占めるとか思うけど?」 呆れたように言うと、一瞬キョトンとして。それから、爆笑した。 「あぁ、うん。まぁ…確かにそうだよな」 第一印象からして最悪の相手に、先入観なしで接しろというのは無理だ。先入観イコール悪感情って図式は、当然成り立つ。それを払拭するには、それなりに付き合いと、他からの情報に振り回されないだけの意思の強さも必要だろう。 尤もあいつに関して言えば、他からの情報は全く持って役にも立たないものだらけだったけど。 「あいつは………」 問い掛けが途中で止まる。だけれど、テッドは気にした風もなく 「うん?」 と先を促すように視線だけを向けてくる。 「………あいつは、何を欲しがってる?」 「………………それ、本気で聞いてる?」 がっくりと肩を落とした上にもの凄く微妙な顔付きで訊ねてくるのに、神妙に頷く。 「あいつの考えてる事なんて、僕にはさっぱり解らない」 不可解極まりないあいつの思惑など解って堪るか―――というのが本音。 「解らないんじゃなくて、解らないようにしてないか?」 「何、それ」 「あいつ今まで周りからちやほやされるばっかりだったから、本人でさえ気付いてないと思うんだけど。本来は、スッゲー不器用だぜ?」 目一杯訝し気な視線を遠慮もなく向けてやる。 「アレで不器用だって言うんだったら、世の中に器用な奴なんていないんじゃない?」 たったひとつの欲しいモノを手に入れる為に学校丸ごと買収するなんて、不器用というよりは正気の沙汰じゃない。 「……それから。あんたの期待にはちょっと添えそうにない…よ」 あいつの名前なんて……僕には呼べない。 ...... to be continue
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