例えば、こんな話 − 事と次第 18 「………あんた、何やってるのさ」 制服、誰が乾かして手入れすると思ってるのか……って、問題はそんな事じゃなくて。 「ルック…?」 全身濡れそぼった男は、僅かに瞠目してこちらに視線を向けてくる。水気を含んだ黒髪から、雫が止めどなく落ちていて。雨脚が強くないから、かなりの時間この場にいたんだろう事が容易に知れた。 「あんたの事、心配してる奇特なヤツだっているって事、忘れてない?」 わざわざ人の後を追ってきて、こいつの過去やらを勝手に話してったお節介な友人は、今頃、生徒部会室から消えたこいつを捜して歩いてるんじゃないだろうか。 「いい加減、周りにも目を向けるべきじゃない」 自嘲気味に歪められた顔に、いつもの余裕然とした様が剥がれ落ちていて。それは、何故だか胸を痛ませる。散々振り回されてきたんだから、小気味いいと思ってもいいのかも知れないのに。 濡れた黒曜石の瞳が、どこか縋りつくかのような淋しい色を浮かべているから。 傷付いた子供の様に、たったひとりで涙を堪えている…から。 ―――だから。 「あんた、友達には恵まれてるよね」 中身、とんでもないヤツなのに。それでも、それくらい思ってくれてる友人が居るって事は、そう悪いヤツじゃないのかも知れない。 「……ルック」 「そんな顔してないでよ。情けない」 言って、頭の上に傘を差し出す。背丈が違うから、僅かながら踵を上げないといけないのが、癪だけど。 ………あれ? 刹那―――微かに、何かが…胸を掠めた。 ...... to be continue
|